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vol.3 文化と誇りをつないでいく。「地域のゆず」の物語【安芸】

sawachinaがクラフトコーラの製造を通じて伝えていきたいストーリー。

それは高知の豊かな食材と食文化、そして人です。

vol.3では、sawachina #2 に使用している青ゆずの作り手・千光士農園さんを取材しました。3代目となる千光士 尚史さん(40)が「地域のゆず作り」に至るまでのストーリーをお伝えします。


千光士 尚史さん(左)とThumbs Up Works 代表の小野(右)




ゆずと生きる地域・高知県安芸



ゆず、文旦、直七、ぶしゅかん、グリーンレモン。sawachinaにたくさんの柑橘が入っている様に、高知県には多種多様な柑橘を育てる土地と文化があります。

面白いのは、県内でも東と西で柑橘を使う傾向が異なること。


同じ郷土料理···例えば、"田舎寿司"の酢飯を作るにしても、高知県東部は「これでもか」というほどゆずをたっぷり搾りかけます。



千光士農園さんの果汁たっぷりのゆず


特に、千光士農園のある「安芸市」はゆずの生産量が日本一多い地域。専業農家に限らずゆず畑を代々受け継ぎ、平日はサラリーマンとして働きながら、収穫時期の10〜11月になると休日にゆずの世話をする人も少なくありません。この時期に安芸地域を車で走っていると、老若男女問わず、長い収穫ばさみを持って庭のゆずを収穫している姿を見かけることも。



ゆずは安芸地域にとっての主な産業であり、それ以上に「地域の文化」で「生活の一部」なのです。




柑橘農家の一人息子として安芸市に生まれた尚史さんも、例外なく柑橘が身近にある環境で育ってきました。幼いころは鈴なりになったミカンの摘果の手伝いをしたことを覚えているといいます。しかし農家の道を選ぶことはなく、勉強が好きだった尚史さんは高知市内の高校へ進学します。


「高校へ入る時は成績が上位でしたが、卒業するときは下から数えた方が早かったです(笑)。お街で遊びまくりましたね」と、大声で笑う尚史さんですが、名古屋の大学を卒業後、大学院へ進学しています。勉強も遊びも好きで、どちらも同じくらい楽しむことができた尚史さん。



「大学では、友人とサークルを設立しました。スポーツクラブを作って、人数も100人近くなってワイワイと楽しんでいる時に、9.11···ニューヨークで同時多発テロが起こって、突き動かされるように遊びを一切やめて勉強をして、国際関係学を研究するために大学院へ進みました。難しくて大変やったけど、原因から過程、結果まで自分が納得するまで考えられるのは楽しかったです」。



その後、静岡の物流会社に就職した尚史さんが高知へ帰ってくるきっかけとなったのは、両親からの連絡でした。家族が体調を崩したことをきっかけに2012年に安芸へ戻ることを決めました。


「両親と静岡で暮らすという選択肢もあったかもしれないけど、自分には高知へ帰るという選択肢しか思い浮かびませんでした。今思えば、あの時に『千光士の農地は僕にとっても当たり前に大切なものだったんだ』と気づけたのでしょうね」。





農業も、研究みたいに原因と結果があって、しんどいけど面白い。


帰郷した12月はゆずの出荷を終えて文旦が色づく時期。尚史さんの農業は土佐文旦の収穫から始まりました。


「人が手伝いに来てくれて、みんなでワイワイと収穫することが楽しかったです。僕は柑橘の栽培に関する全てのことを知らなかったので周りの人が剪定の仕方から教えてくれました」。




とにかく綺麗に栽培しよう、と農業に向き合い始めた3ヶ月後。決算を見た尚史さんは驚愕したといいます。


「数字を見て『これから、どうやって生活していこう』と悩み、やっぱりまずは勉強しました。数ヶ月前には『肥料』や『剪定』のことも全く知らなかったのに、気がつけば周りの誰より喋るようになっていましたね(笑)」。


農業と勉強の日々を繰り返し、帰郷した翌年には土佐文旦で農林水産大臣賞を受賞。それに応じて、市場単価も上がりました。


「長年、親が綺麗に管理をしていたところに、僕は少し手を加えただけです。でも面白いと思った。しんどいけど、何より面白い。原因と結果が研究と似ていて、ある程度やったことに応えてくれるから。突発的な自然災害は別としてね」。


それから、雇用や福祉との連携、園地を使って子どもたちに自然学習の場を設けるなど、ゆずと地域と歩んで来ました。"ほんまにしんどいけどね? 面白い" と会話のなかで何度も繰り返すような、大変で楽しい8年間。尚史さんは少しずつ農業の可能性を広げて行きました。



帰郷して8度目の文旦の収穫




「千光士農園のゆず」から、「地域のゆず」へ


"突発的な自然災害は別として"。

2018年7月におきた西日本豪雨は安芸地域の農地にも大きな被害をもたらしました。尚史さんの近くにも農家を続けられないと悩む人がいました。率先して手伝いに行くなかで、農業は自分一人でやるわけではなく地域の人とやっていくものだと感じたといいます。



「最初はお客さんに『おいしいね』『香りがいいね』と会話が生まれる様な柑橘を届けることに一所懸命でした。それは今でも変わらないけれど、自分の農業だけ考えていても地域のためにはならなくて。『地域で支えないといけない』と強く感じ始めたのは西日本豪雨の時からです。後継者の問題もあり、高齢で手放さないといけなくなった農地はできるだけ引き継ぎたいと思いました」。




この日は千光士農園の文旦の収穫を手伝いに来てくれた方も一緒に写真を撮りました。





ゆずは地域そのもの。変化が激しい時代のなかで、誰かが考えないと地域の誇りが廃れてしまうと、尚史さんは危惧しています。



「よくインタビューで、『どんな農家になりたいですか?』と聞かれるけど、都度目の前の課題をクリアしていくのが精一杯で、何ができるかは正直わからない。わからんけど、自分の息子が農家を継がなかったとしても、農地の手入れをしていたら、誰かが継いでくれる。そう信じて、僕らができることは次の世代のことを考えて残すことやね」。



土佐文旦の収穫作業後、千光士農園で働く若者たちと談笑する尚史さん




次世代に文化と誇りをつなぐため、尚史さんは"勉強"と"農業"、"しんどさ"と"楽しさ"を繰り返して、今年も地域とゆずと歩んで行きます。sawachinaを通して、尚史さんをはじめ安芸の人たちが大切に想う「地域のゆず」を知っていただけたなら、幸いです。



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千光士農園


高知県東部・安芸市でゆず、土佐文旦、ポンカン、みかんなどの柑橘類を栽培。土佐文旦で農林水産大臣賞を受賞。その後も高知県園芸連会長賞(2018年)や高知新聞社長賞(2019年)など、丁寧な栽培で様々な柑橘が評価されている。



電話/090-7045-6796

住所/高知県安芸市井ノ口乙1531



photo & text by かずさ まりや (@kazusa_mariya, @chuu_kochi)



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